医療者にオススメ!久坂部羊の小説「悪医」&「芥川症」

公開日: : 最終更新日:2017/04/08 オススメの小説など

      

久坂部文学は医療系小説の最高峰!(だと思ってる

お医者さんの作家と言えば、森鴎外、安部公房(医者じゃないかも)、渡辺淳一さんあたりが有名でしょうか。
最近では海堂尊さんも人気がありますよね。
その他、お医者さんではありませんが、遠藤周作さん、東野圭吾さんあたりも医療を題材にした作品を数本書いてます。

ですが、そんな数々の名作家を抑えて私が一番に推したい医師兼作家さん、それが久坂部羊さんです。

今まで出てきた作家さんがビッグネームすぎて少し霞むかもしれませんが、久坂部さんだって十分ビッグネーム。
それに、質・完成度はどの作品を読んでもかなりの高さです。

話は飛びますが、私自身、久坂部文学の魅力は以下の三点だと感じています。

・読みやすさ
・客観的視点の秀逸さ
・徹底したリアルさ

特に下二つ「客観的視点」「徹底したリアル」という点では、お見事としか言いようがありません。

医師ゆえのリアルさは言うまでもないんですが、視点が独りよがりにならない所が久坂部文学の素晴らしいところ。

医師・患者双方の視点からしっかりと描かれているので、医療者はもとより、患者側の気持ちを理解するためにも必ずや一役買ってくれることでしょう。

今回はその中で、特に私がお勧めしたい作品を2点紹介したいと思います。

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「悪医」 朝日文庫


今作は、第3回日本医療小説大賞受賞作品です。

恥ずかしながら私自身、久坂部さんといえば「無痛」「第5番」に代表されるような、エンターテイメント性の強い医療系ミステリーを柱にしている作家さんだとばかり思っていました。

ですが、読めば読むほどその認識は誤ったものだと気づかされました。

医療ミスの隠蔽と心臓の若返りを題材にした「破裂」、安楽死法案をテーマにした「神の手」、四肢切断によるQOLの向上をテーマにした「廃用身」など、到底フィクション作家とは思えないリアルな作品ばかりだったのです。

その中でも今回紹介する「悪医」は、死に物狂いで治療に縋ろうとする末期ガン患者と、万策尽きて余生を穏やかに過ごすよう勧める担当医の“ガン治療に対する認識の乖離”を描いた作品です。

少しでも希望があるならどんな治療でも受けたい患者。
治療しても良くなる見込みが無いので、余生を穏やかに過ごしてほしいと考える担当医。

どうにか人生を終わらせない方法を考える患者。
いかに終末を有意義に過ごせるか考える担当医。

現実を受け入れられず担当医が信じられなくなる患者。
どうして現実を受け入れようとしないのかと困惑する担当医。

このように医師と患者は近い存在のようで、実は一番分かり合えない存在だという現実を「悪医」を通して必ずや知る事になると思います。

正直内容は激重です。
知らない方が良かったーと思う事もあるかもしれません。

ですが、そもそもガン治療をテーマにした小説の内容が軽いはず無いですし、重いと感じたという事はそれだけリアルが伝わったと解釈する事もできますよね。

悪戯に恐怖心を煽る作品だと誤解する方もいるかもしれませんが、今作に描かれている内容は二人に一人が直面する現実でもあります。

「悪医」は、そんな現代の日本の医療に一石を投じる大きなインパクトを持った作品だと確信していますし、今まで数多く久坂部さんの作品を読んできましたが「悪医」ほど現実感溢れる作品は無いと感じています。

患者が医師の気持ちを知るという意味ではかなり残酷な作品かもしれません。
その反面、医療者が患者の気持ちを知るためには絶対に読んでほしい作品でもあります。

ご興味がありましたら、是非一度読んでみてください。

「芥川症」 新潮文庫

タイトルを見た分かるように、この作品のタイトルは芥川賞をオマージュしたもの。
内容も芥川龍之介の有名な短編を完全オマージュ。

久坂部さん曰く「芥川龍之介から想を得た」らしく、あくまでパクリではなくオマージュとのことw

今作は7つの短編から構成された、いわゆる短編集になっています。

芥川もビックリの「鼻」「他生門」「バナナ粥」「クモの意図」など、明らかにパク・・・いや、オマージュ色の強い短編集になっていますw

なんかオマージュのゲシュタルト崩壊が起きそうなので、ここいらで本題に入ります。

この短編集の中で私が最もお勧めしたいのが「或利口の一生」という作品。
元ネタは「或阿呆の一生」ですね。

解説欄の原文をそのまま引用します。

高齢者に対する過剰なガン治療に苦言を呈してきた作家(久坂部氏)が、自身の半生をモデルに、医師が患者の立場に立った際の「イフ」に迫った秀作だ。著者曰く、「治療しない方がいいと書いていても、自分がガンになってみたら治療に走るかもしれない。一番みっともないコースを書きました」。(中略)医師としての自分を客観視していないと書けない作品だ。

川村律文

解説員がこのように解説しているわけですが、実際に読んだ印象もまさしくこの解説通りです。

行き過ぎたガン治療の無意味さは身を以て知っている著者。
にも関わらず、自分がもしガン患者の立場になった場合の行動を客観視出来る俯瞰的な視点。

立場が変われば見方も変わるとはよく言いますが、まさしくその言葉を体現した作品が「或利口の一生」なのです。

「悪医」同様、患者側の視点を知る術としてとても良い作品だと感じます。

時間の許す限り、是非読みふけってみてくださいな。

まとめ

さて、まだまだ紹介した作品が山ほどありますが、一挙に紹介すると疲れちゃうので今回はこの辺りで。

医療従事者として、職種に関係なくすべての方にオススメできる作品を選んだつもりです。

ですが、その中でも特に医療従事者の方には読んでいただきたい。
そんな思いも載せて書いたつもりです。

では。

最後まで読んでいただきありがとうございました!
お役に立てれば光栄です。

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