東日本大震災に関する書籍や小説は絶対に読むべき
あまりにも知らない事が多すぎた
2011年3月11日。
この日は日本人の誰もが忘れられない1日になりました。
東北を中心とした東日本に甚大な被害をもたらした大地震。
多くの犠牲者を出した大津波。
ありふれた日常を一瞬で奪い去ってしまった未曾有の大災害は、日本中に多くの悲しみを残しました。
しかし、私も含め被災地に居を構えていなかった人間は一体どこまでその真実を知っているのでしょうか?
残念ながら、多くの人は一部どころか、ほとんど知らないというのが現状でしょう。
私もご多分にもれず、震災関連の本を読み進めるにつれ、いかに自分が無知だったのかを思い知らされました。
まだまだ上積みしか知らない私ですが、震災関連の書籍を通して感じたこと、印象に残った3作品の感想を備忘録がてら書き記したいと思います。
記者は何を見たのか 3.11東日本大震災
記者は何を見たのか 3.11東日本大震災 (中公文庫) [ 読売新聞社 ]
この書籍は、読売新聞の記者77名が実体験を元に書き下ろしたルポルタージュ集です。
記者として世の中に情報を発信しなくてはいけない思い。
その責務に反し、悲しみにくれる被災者に何と声を掛けたら良いのか分からない新人記者。
悲痛な胸の内を聞くにつれ、人目も憚らず号泣した記者。
家族の安否も分からぬまま、自身の責務を果たそうと取材に奔走する記者。
本書籍では、そのような公平性・客観性に欠けるため記事に出来なかった「生の記者の声」が赤裸々に記されています。
正直なところ、これを読んだ多くの人は何も感じないんじゃないかと思うんです。
それだけ実感がなさすぎる、現実感がなさすぎる内容なんです。
これだけ繁栄の限りを尽くした今の日本で、ここまで現実離れした事象が本当に存在したのだろうかと。
例えば、表紙の毛布に包まれ呆然と立ち尽くす女性の写真を見て、彼女が一体どういう思いでその場に立ち尽くしているのか想像できるでしょうか?
正直、私は読み進めるまで全く想像がつきませんでした。
いや、正確には想像しようともしなかった。
どこか自分とは関係のない他人事のように思っていたんです。
しかし、そこには未曾有という言葉だけでは語れない、凄まじい現実があったんです。
その現実を知った時、自分自身の情けなさ、無知さに涙が出そうになりました。
本書籍ではそのような、「想像もつかない」ような現実を収めた写真が多数掲載されています。
特にp55より掲載されている酒本裕士記者のルポは非常に印象的でした。
雪が舞う寒空の下で地面に膝をつき涙を流す老人を写した一枚は、東日本大震災がいかに甚大な被害・悲しみをもたらしたかを象徴した一枚です。
今私がお伝えしたのは、内容のほんの一部にすぎません。
77人の記者が何を感じ、何を書き残したのか。
その時被災地では何が起こっていたのか?
東日本大震災の全容を把握し、概要を掴むために本当にオススメしたい一冊です。
石巻赤十字病院の100日間
石巻赤十字病院の100日間増補版 (小学館文庫) [ 石巻赤十字病院 ]
私がこちらの本を読もうと思ったきっかけは、
私自身が理学療法士という資格を有しており、災害医療の第一線で従事する職業ではないにしろ、医療人の端くれとして被災現場の医療を知っておきたいと思ったからです。
発災当時学生だった私は、避難所で筋力が弱り歩けなくなっている老人が多発している、という話を漠然と耳にしていました。
ただ、正式な有資格者でもなければ遠い場所での話だと思っていた私は、自分には関係のない事だと思い聞き流していました。
今、その時の自分の考えを心底悔いています。
現地行っても出来る事は何も無かったでしょうから、それ自体は特に後悔していません。
仮にも医療人の卵ながら何も考えられなかった未熟な自分に対し恥ているんです。
本書籍の帯にはこう書いてあります。
「それは私の担当ではない」「それは私の専門外だからできない」という人はいなかった。
災害はいつも想定外であって、想定外でない災害などない。
日々の医療をきちんとやること。
想定外への備えもその延長上にしかない。
被災地の医療機関では、自分には関係ないと自分本位の理屈は通用しなかったんですね。
事務員が食料を運び、医師が地域連携の陣頭指揮を取り、看護学生もが被災者のケアにあたる。
明かりを求めて集まってくる被災者に「ここは避難所じゃないから入れる事はできない」と、医師でありながらその道理に反する苦渋の決断を下す。
そういう現実がそこにはあったんです。
この書籍を手に取った多くの人にとって、災害医療の具体的内容はあまり参考にならないかもしれません。
医療人ではないので、それは当たり前の話です。
しかし、思いがけない事態に遭遇した際、きっとこの書籍の内容が役に立つと思います。
手を取り合い協力しなければいけない時、自分には何ができるのだろうか?
そんな事を感じさせてくれる貴重な一冊でした。
遺体 震災、津波の果てに
小説も含め、震災関連書籍の中で最も印象に残ったのがこの本です。
発災直後から火葬に至るまでの遺体安置場の状況が事細かに描かれたルポルタージュです。
正直、何度も何度も涙がこぼれました。
電車の中という公共の場ですらその涙を抑えきることができませんでした。
感動話などという綺麗な内容ではなく、どこまでも無慈悲で情の欠片もない災害の凄まじさに、文章ながら目を背けたくなる内容ばかりです。
死体検案を担当した医師、我が子を亡くした夫婦、遺体搬送を担当した役人、涙を流しながら読経する住職など、各々の視点から遺体安置所の現実が仔細に描かれています。
そして、この書籍は非常に印象的な言葉で結ばれています。
生きたいと思いながらも歯を食いしばって亡くなっていった人々がいたこと、そして生き残った人々が今なお遺族の心や生活を支えていること。それらを記憶することがこれからの釜石、東北の被災地、そして日本を支えるものになるはずと確信している。
【引用】遺体 震災、津波の果てに p319 石井光太著 新潮文庫
適当な気持ちで読むべき本ではないですが、多くの人に知ってほしい本ですね。
まとめ
震災関連の本を通して、私は自分の考えの未熟さに改めて気がつかされました。
東日本大震災で亡くなった方の多くは津波が原因によるものだとされています。
しかし、10分近く揺れていた上、停電によりテレビは見られず、ネットや電話回線はパンク状態。
今の日本でラジオを咄嗟に用意できる家庭はそう多くないでしょうから、こんな状態でどうやって正確な情報を得る事が出来ようか。
津波関連死を行政の責任だと追及する声もあったようですが、もしかすると我々にも電話やネットの使用を控える機転が必要だったのかもしれない。
緊急避難場所が指定されている理由など考えもしませんでしたが、今一度考えてみると、行政が指定した緊急避難場所を把握していればそれだけ配給を受け取りやすくなるし、配給する側も効率よく配給できる。
労働力不足に陥る災害現場において、効率よく人員を活用するのはとても重要だからこそ、そのために国民が普段から心掛けてくべきことはたくさんあるなと。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
お役に立てれば光栄です。
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