老後に備えて貯金はしたほうがいい!的な小説風の記事を書いてみた

公開日: : 最終更新日:2018/01/28 介護保険制度とか色々, 社会問題

      

悲惨

これは私がある年配女性から伺った実話を、時系列に沿ってまとめたノンフィクション記事です。

妄想の果てに

2058年8月3日

突然何かにつまずいたと思ったら、目の前が真っ暗になった。
気がついた時にはベッドの上だった。
体に繋がれてる沢山のコードの先には複数のモニターが点滅している。
「ピッピッ」と規則的に鳴り響く機械音。
その横で心配そうにこちらを見つめる妻。
どうやらここは病院らしい。

2059年8月10日

入院から1週間が過ぎて、自分の状況を少しずつ整理できるようになってきた。
医者の話によると、俺は「ミギチュウダイノウドウミャク」という脳の血管の一部が詰まってたらしい。
幸い近くを通りかかった人が救急車を呼んでくれたので助かったと聞いて、日本もまだまだ捨てたもんじゃないなと思えた。
いつかお礼にいかなくては。
今はまだ眩暈と手足の不自由さがあるけど、とにかく命が助かって本当に良かった。

ただ、一つ納得のいかない事がある。
どうやら最低でも2か月の入院が必要になるらしいんだが、1日3万円とバカみたいに高い個室に入れられている。
「いますぐ部屋を移してくれ!」と言ったけど、最近は*主流高齢化社会の影響で入院患者が激増して何処も満床らしい。
オペ代、機器代を含めると2か月の入院で掛かる費用は200万円以上。
でも、そこしか空いてないなら仕方ない。背に腹は変えられないか。

2059年2月17日

その後1ヶ月の入院生活を経て、*リハ病院に転院して再度半年の入院生活の後、やっと自宅に帰れた。
左足はそれなりに動かせるようになったが、左手は不自由になってしまった。
左腕は感覚も鈍く、注射針を刺されてもよくわからない。
いわゆる後遺症ってやつらしい。
家族や専門家と話し合った結果、後遺症に合わせて住宅改修をすることになった。
ざっと50万はかかりそうだ。
それ以外にも、妻は日中パートに出ることが多いため、ヘルパーや看護師に最低限の生活援助をしてもらわないといけない。
本当は妻に面倒を見てもらいたいけど、生活の事を考えるとワガママは言えない。
毎月5万の出費は痛いけど、これも家で生活するためだと思って割り切ろう。

「家に帰るのも楽じゃないな」

2059年3月1日

やっぱり家での生活は気分がいい。
リハ病院に入院中は隣のジジイが毎晩叫び出すんで、ちっとも眠れやしなかった。
死んでもあんな風にはなりたく無いな。
それに病院の飯ときたら味が薄いし、量も少ない。
おかげですっかり痩せてしまった。
その点、我が家は誰にも気を使わないでいいし、自分だけの時間が取れる。
少し体は動かしにくくなったけど、そんなのは気合でどうにでもなる。
転んだら再入院ですよと言われたが、バカにするな。俺は絶対に転ばない自信がある。
でも、万が一って事もあるし、これ以上医療費のことで妻に迷惑は掛けられないから、「転ばぬ先の杖」だと思って外に出るのは控えることにしよう。

「俺はなんて妻思いの良い旦那なんだ」

2059年3月18日

自宅に戻ってきて1ヶ月が過ぎた。
殆ど外出をしない俺は、1日18時間以上をベッドの上で過ごす。
体はまだまだ元気だが、積極的に動く気にはなれない。
疲れるし、だるいし、メンドくさい。
何より昔から目的もなく動くのは性に合わない。
入院中は仕方なくリハビリをやっていたが、今はそんな苦痛から解放された毎日を過ごしている。
とはいえ、主な時間つぶしはテレビを見ることだけ。
入院中もそうだったが、俺は基本的に暇のつぶし方を知らない。
そもそも、昔から俺は仕事一筋に生きていたので、趣味の一つもない人間。
家族との時間も顧みず、一心不乱に働いた。
だから、老後は残りの人生を妻に尽くしたいと思っている。
「昔のテレビは面白かったなー。今のテレビは本当くだらないよ」
一人ごちながら、妻にお茶を入れてもらうのが今の唯一の楽しみだ。
これなら妻との時間も大事に出来る。

きっと妻もそれを楽しみにしてくれてるだろう。

2059年3月24日

ベッドで横になる時間が長いせいか、最近は昼夜が逆転してる気がする。少しずつ手足の動きも鈍くなってきてる。ぼーっとする時間が記憶を曖昧にする。近頃は体の調子も思わしくない。些細な事でイライラするようにもなってきた。

「男でも更年期障害があるんだなー。」

看護師にそう告げると、医師による2週に1度の往診が始まった。

「これで固定費7万かぁ」

妻の分も合わせると月10万が医療費で食いつぶされる。
85歳まで生きるとしても、あと1,500万円以上は消える計算になる。
正直、痛くないといえば嘘になるが、まぁこれも仕方ない。
こういう時のために他に見向きもせずセッセと蓄えてきたんだから。
それに、医師の往診が入ればきっと体の調子は良くなるはずだ。前みたいに外にも出られる。おいしものも食べられる。現役時代に思い描いてた老後が送れる。

2059年9月7日

往診が始まってから半年後、ベッドで横になる時間が長くなりすぎてお尻に床ずれができてしまった。
床ずれとは、お尻や背中などに圧力が掛かり続けることによって起こる一種の皮膚障害の事を言うらしい。
医者の説明によると、床ずれは運動不足で体が動かなくなる「ハイヨーショーコーグン」とか言う、耳慣れない症状が原因らしい。夏場は湿度と蒸れで余計に床ずれが発生しやすいそうだ。
ただ、俺には「ハイヨーショーコーグン」はあまり関係なさそうだ。
だって、医者の言いつけ通り”転ばないよう“に外出を自分で控えてるだけだし、動こうと思えばいくらでも動けるんだから。

2059年10月2日

それから1ヶ月もしないうちに床ずれはさらに悪化してきた。
お尻の皮膚は大きくただれ、傷口が膿み、筋肉が剥き出しになり、骨まで見えようかという状態まで悪化してしまった。痛い。痛い。
痛み止めも効かず、傷口から変な汁がにじみ出てお尻を湿らすのがわかる。
激痛で夜もろくに眠れず、一人で姿勢を変える事すら出来ない。もう頭がおかしくなりそうだ。
なんで医者の治療を受けてるのにこんなことになるんだ!
一向に治る気配がないじゃないか!
一体どうなってんだ!!

「あの医者はヤブ医者だ!間違いない」

そう思うと頭にカーッと血が上ってきて、つい怒鳴り声を上げてしまった。

「ふざけるな!!!」

あまりに怒鳴り声が大きかったのか、妻が慌てて様子を見に来た。
しかし、なぜかその表情には驚きよりも決意と焦燥感が滲んでいた。

2059年10月3日

翌日、例のヤブ医者が往診に来たところを詰問してやった。
「毎月10万も医療に金を落としてやってるのに、なんで俺はこんな痛い思いをしなくちゃいけないんだ?お前、ヤブ医者だろう?」
そう、勢いよく糾弾すると、そのヤブ医者が「今日も発作が出ちゃってますね。鎮静剤の注射しておきますね。」と、妻に向かって言う。
「発作?なんのことだ?」
俺はそんな言葉初めて聞いた。
妻とヤブ医者はまるで俺の存在など無視したように話し続けていた。

「望むところだ。俺だってこんな奴らの顔なんぞ見たくもない!」

「イテッ」

当然右腕に痛みを感じた気がした。
気になって右腕に目をやると、例のヤブ医者がしたり顔で点滴をしてやがる。
得体のしれない液体がチューブを通して俺の体内に侵入してくる。
誰が点滴など打っていいといった?
俺は一切同意してないぞ?
まさか妻が同意したのか?
そうか、こいつらグルになって俺を殺そうとしてるんだな。
そんなに俺が邪魔になったか?
俺が何をしたっていうんだ?
それとも他に理由があるのか?それなら目的なんだ?
金か?
家か?
もしかしてコイツらは色恋の仲なのか?

それなら、もう我慢できない。

「テメェー何注射しやがった!!!おい、こんなヤブ医者は今すぐうちから追い出せ!!!」

語気を強めて怒鳴ると、医者のヤローは驚いたとも怖気づいたとも取れる表情を浮かべながら静かに部屋を後にした。

「ざまぁみろ。俺の言う事を無視するからそういう事になるんだ」

慌てて後を追う様う妻の様子から察するに、あいつらはやっぱり出来ていたんだろう。
部屋の外からは何やら深刻そうな話し声が聞こえるが、大方今後の相談でもしてるんだろう。
ケシカラン。誰がお前らの思惑通りに事を運ばせるもんか。
少しカッとなってしまったが、それで良いんだ。
このまま放っておけば俺は殺されるところだったんだから。
妻にはお茶を飲みながら後でじっくり事情を説明して謝ろう。
いや、そもそも妻が悪いんだから俺が謝る必要はない!
そう反芻しながら、勢いよく左手で点滴の針を抜くと、いつものお気に入りの腕時計が左腕に付いてないことに気がついた。

「アイツら、俺の大事な時計まで盗みやがった」

その時、部屋の片隅に無造作に壁掛けされている時計の針は、午前2時を指していた。

2059年10月17日

2週間後、例のヤブ医者の往診があった。

 

 

「先生、初めまして。私は7年前に骨折して少し体の調子が悪いのです。でも、先生の治療で良くなると思うとこれからの人生が楽しみです」

 

 

彼は何事もなかったかのように、ヤブ医者などと罵詈雑言を浴びせた相手にそう告げたのだった。

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編集部注 – 介護の現実

彼はその後正式に「アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の混合型」と診断され、奥さんの同意の元、施設に入居することとなりました。
廃用症候群と重度の褥瘡も併発していたようです。
後に奥さんは、「毎日毎日お茶汲みをさせられて『私はあんたの女中じゃない』と思って生活していた」、「これから何年続くかも分からない介護に絶望していた」、「施設に入所できるだけの貯金があって良かった」と苦しかった胸中を吐露してくれました。

特に印象的だったのが、こちらの言葉。

「暴力や糞便を投げつけてくる行為は日常茶飯事で、もうあの頃の夫がいないと思うと居た堪れなかった」

この言葉を聞いた時、私はまだまだ介護の実態を把握仕切れていないと強く感じました。

どうやら彼は夢と現実との境界線が分からなくなり、かなり強い被害妄想を抱いていた様です。
床ずれが出来てしまった不信感から、ヤブ医者だ!と思い込んでしまい、それが結果的に妻との不倫を疑うまでに発展してしまったのです。
暴力や暴言は、それらの被害妄想に対する自己防衛だったのかも知れません。
もちろん夢の中の話なので、真実は彼のみぞ知るところですが。

しかし、2週間後にはすっかりその事を忘れていただけでなく、医師の顔まで忘れ、自分の症状までも勘違いしてしまっていた様です。

これは、彼が自宅に帰ってきてからわずか10ヶ月足らずでの出来事でした。

皆さんは、この夫婦の現実を知って何を感じたでしょうか?

「必死で働いてくれた旦那を簡単に見放すなんて最低!」と言えるでしょうか?

私はこの奥さんを冷たい人だとは決して思いません。
介護者の負担軽減は主流高齢化社会の現代においてもっと議論されるべきことです。
老人が老人を介護するという矛盾はどうしてなくならないのか。

認知症という病は、性格を変え、状況判断を鈍らせ、時には暴力的になり、大事な人の顔までも忘れてしまう可能性のある病です。
この現実を目の当たりにした時、あなたは冷静に対処できますでしょうか?
あなたの大事な人が自分の顔を忘れてしまう悲しさを受け止めきれるでしょうか?
特に認知症介護を家族が実施する場合、元気な姿を知っている分だけ悲しみが深くなると言われます。
日々刻々と変化していく家族の姿に、介護者の心が拒否反応を示してしまうのです。
介護は綺麗事ではありません。必ず相応の苦しみが付いて回るのです。

今回取材させていただいたご家庭は、幸い貯蓄があり介護苦から逃れる事ができましたが、今でも多くの世帯では老老介護の苦しみから抜け出すことが出来ていません。

「年金制度の廃止」が公布・施行されてから25年が経過しますが、我々日本人は、これから襲ってくるさらなる高齢化社会の波に対してどう立ち向かうのかを、今一度考えるべき時なのかもしれません。

最後に、今回の記事を書くにあたり沢山の協力を頂きました事、大変感謝申し上げます。

メディカルリテラシー出版編集部一同

✳︎1主流高齢化社会:全人口のうち65歳以上の割合が49%以上の状態。

✳︎2リハ病院:リハビリテーション病院の略称。リハビリを専門的・集中的に行う病院。

参考

参考:「嗤う名医」ep1寝たきりの殺意 久坂部羊

というわけで、私の大好きな作家である久坂部羊さんの作品の一部をオマージュさせていただきましたー。
パクリではありません、オマージュです。

ちょっとノンフィクションっぽくかけてますかね?
一応言っておきますが、これは全部想像の話ですからねー。
全て私の脳内で作り上げた虚話です。
最初にノンフィクションって書きましたが、それもエンターテイメントとしての演出です。
あんまり真剣に受け取らず「変な事を考える奴もいるんだなー」程度に、一つの作品として楽しんで頂ければと思いますー。

では。

注:この記事はガチでフィクションです。

最後まで読んでいただきありがとうございました!
お役に立てれば光栄です。

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